浦和簡易裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告日本衡器工業株式会社を罰金五万円に、被告人馬場一二を罰金四万円に、被告人松村義雄を罰金三万円に各処する。
被告人馬場一二、同松村義雄において右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部被告人両名および被告会社の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告日本衡器工業株式会社(以下被告会社と略称する)は、埼玉県北足立郡蕨町大字蕨二百八十二番地において度量衡器の製造、修覆販売を業とするもの、被告人馬場一二は同会社の代表取締役として業務全般の統轄を行うもの、被告人松村義雄は同会社の常務取締役であつて主として製造方面の業務を掌理するほか、昭和二十九年十一月頃からは、同会社の労務ならびに経理事務をも被告人馬場一二等の取締役と共に執行していたものであるが、被告人馬場一二、同松村義雄は共謀の上前記被告会社の義務として別紙不払賃金一覧表記載のとおり昭和二十九年十二月三十一日より昭和三十年五月三十一日迄の間前記被告会社において雇傭中の労働者中村孝外十五名に対し賃金合計金四十四万六千四百三十一円をそれぞれ所定の支払期日たる毎月末に支払わなかつたものである。
なお、前記別紙不払賃金一覧表は、労働者名欄の「渡辺隆男」とあるのを「渡辺隆夫」と訂正するほか、起訴状記載の別紙不払賃金一覧表と同一であるからここに引用する。
(証拠の標目)(省略)
(被告人馬場一二、同松村義雄の主張に対する判断)
被告人馬場一二は、本件賃金不払について、被告会社の営業経理会計の業務を担当していた取締役田口武次郎、津金辰造、長島新太郎等にその解決を督促し又自ら私財を投じて違反防止に必要な措置を取つたものであるから免責されて然るべきであると主張し、被告人松村義雄は自ら工場において一般従業員と共に働き、個人的に負債を負つてまで賃金の未払分を支払うべく努めたが、資金面の担当取締役であつた田口武次郎、津金辰造の両名が資金を本店に入金しなかつたため資金が欠乏し本件賃金の未払分を支払うことは当時何人をその立場においても不可能であつたから本件賃金不払は期待可能性を欠き、罪とならない旨主張する。
よつて按ずるに、前顕各証拠によれば、なるほど被告会社において当初営業経理等資金関係業務は主として田口武次郎、津金辰造等がその局に当つて居り、又田口武次郎が右資金関係事務の処理について必ずしも充全を尽したとは言い得ない事情はこれを窺うことができる。しかし、被告人馬場一二は終始被告会社においの唯一の代表取締役たる地位にあつて全般の業務を統轄していたものであるから、会社業務の一部の執行を代表権のない田口武次郎等の取締役に一任したことを理由に未払賃金の支払のために必要な措置を取るべき義務を免れるいわれはなく、賃金不払の事実を知り、かつ、これを善処し得る地位にあつたのであるから自ら進んでこれを解消するに必要な措置をとらない以上その責を負うべきは当然である。
更に同じ証拠によれば、昭和二十九年十一月頃に至り被告会社の資金繰りがいよいよ窮迫するや被告人馬場一二はその経営建直しに自ら直接乗出し毎月一回位取締全員の会議を開いて会社の業務の執行について協議決定し又必要に応じ被告人松村義雄等と相談の上被告会社において調達した資金を銀行方面の支払にあて又は材料費の支払等に充てて企業体の存続をはかりながら判示のとおりの賃金不払を行つたことが認められるのであつて、右事実によれば被告人馬場一二の違反防止につき必要の措置をとつたとの主張は到底これを採用できないし、被告人松村義雄の前記主張も亦採用し難い。
(法令の適用)
被告人馬場一二、同松村義雄に対し
労働基準法第二十四条第二項第百二十条第一号刑法第六十条罰金等臨時措置法第二条刑法第四十五条前段(罪数は、労働者個々人につき毎月一罪成立すると解する)第四十八条第二項第十八条
被告会社に対し
労働基準法第百二十一条第一項本文第二十四条第二項第百二十条第一号罰金等臨時措置法第一条刑法第四十五条前段第四十八条第二項
被告会社および被告人両名に対し
刑事訴訟法第百八十一条第一項本文
(昭和三三年二月一〇日浦和簡易裁判所)
(別紙)
起訴状記載の不払賃金一覧表
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